INTERVIEW

インタビュー#3 トヨタ自動車×川崎市消防局

公開日:2026年9月25日

官民連携での実証 担当者インタビュー トヨタ自動車×川崎市消防局「DRIVE RECORDER119」

119番通報が入る現場では、通報者自身も混乱していることが少なくありません。場所や状況を言葉だけで正確に伝えることが難しい場面もあります。そうした消防現場の課題に対し、トヨタ自動車株式会社が提案したのが、ドライブレコーダー映像を活用して災害現場付近の状況把握を支援する「DRIVE RECORDER119」の取組です。今回は、サービスの実装に向けてまさに今実証実験を進めているトヨタ自動車株式会社 新事業企画部の加藤度佑様および消防局職員に、連携の背景や実証開始までのプロセス、官民連携を進める上での気づきについて伺いました。

参考:DRIVE RECORDER 119に関する共同実証実験に係る提案 – 川崎市官民連携総合窓口

写真左:トヨタ自動車株式会社 加藤様/写真右:川崎市 消防局 清水担当係長


本取組はどのような背景から生まれたのでしょうか

【トヨタ自動車 加藤様】

弊社本部では、自動車本体以外の新しい事業領域にも幅広く取り組んでいます。今回の「DRIVE RECORDER119」も、社内の新事業創出スキーム「BE creation」の中でゼロイチの段階から起案したものです。最初は堺市様や京都市様などで実証をさせていただき、その後、川崎市でも実証の機会をいただいたという流れです。このサービスは、民間だけで完結するものではなく、消防局や自治体の皆さんと一緒に取り組んでこそ価値が出るものです。今回このような形で実証を進められていることは、本当にありがたいと感じています。

トヨタ自動車 加藤様

今回提案先として川崎市を選んだのはなぜでしょうか

【トヨタ自動車 加藤様】

本サービスは、ドライブレコーダーの映像がなければ提供できません。そのため、川崎市のようにドライブレコーダー搭載車両が一定数見込める大きな自治体であることは、実証にあたり重要な点でした。特に川崎市は、南側に工業地帯、北側に住宅地があるなど、一つの都市の中に多様な地域特性を持っています。今後のサービス展開を考えるうえでも非常に参考になる実証フィールドだと考え、連携の提案をさせていただきました。

実証を始めるにあたり、直面した課題や大変だったことはありましたか

【トヨタ自動車 加藤様】

これまでの自治体との連携では、行政の制度的な仕組みは利用しないケースが多く、民間提案制度を活用した連携は今回が初めてだったため、実証開始当初は進め方が分からない部分もありました。ただ、毎週のように川崎市消防局の現場で相談させていただいており、実際に取り組む中で大きく困ることはなく進められています。一方で、民間提案制度では提案内容が最終的に採択されるか分からないため、そこに対するドキドキ感は正直ありました。

 

【川崎市消防局 清水】

消防局としては、最初に提案をいただいたときから、現場の状況を映像で把握できる、あるいは“見える化”できるという内容に対して大きな可能性を感じていました。もちろん、実際にどのくらい映像が取得できるのか、地域によって偏りが出てしまうのではないかといった懸念はいくつかありましたがそうした部分も含めて実証の中で一緒に確認できればと考え、課題よりも検証する意義の方が大きいと判断し、実証に踏み出しました。

実証が始まってからは、どのように連携を進めているのでしょうか

【トヨタ自動車 加藤様】

私たちは、現場の皆さん、特に119番通報を受けるオペレーターの皆さんに使っていただいて初めて価値があるサービスだと考えています。そのため、現場の声を大切にしています。川崎市とは定期的にお話しする機会をいただき、実際に使ってみてどうか、どこが使いづらいか、どのような改善が必要かを伺っています。いただいたご意見を社内でも確認しながら開発・改善を進めています。

【川崎市消防局 清水】

トヨタ自動車様には、オペレーターの声・要望を丁寧に受け止めていただいています。もちろん、川崎市だけのための独自システムにするわけではなく、他都市でも使える形にする必要があります。そのため、こちらの要望と全体の設計で折り合いをつけながら、お互い無理のないように進めています。

実証を進める中で、見えてきた課題や今後の方向性はありますか

【トヨタ自動車 加藤様】

現在、川崎市ではタブレットでドライブレコーダーの映像を確認していただいています。ただ、119番通報の対応中は非常に切迫しています。その中で、オペレーターの方がタブレットを操作して映像を見ることには、どうしても負担が生じます。今後は、指令台システムとの連携も見据えています。通報が入った際に、その地点周辺の映像をより少ない操作で確認できるようになれば、オペレーターの方の負担を減らしながら、迅速に現場状況を把握できるようになります。本導入に進むのであれば、そこまで見据えて取り組んでいきたいです。

【川崎市消防局 清水】

現在は実証中ですが、実際に119番通報で使用しており、現場状況に関する情報の高度化につながる事例も出てきています。今は、オペレーターが映像を見て現場に伝えています。将来的には、救急隊や消防隊が直接同じ映像を見られるようになれば、より正確な情報共有につながる可能性があります。もちろん、セキュリティや個人情報の課題はありますが、そのような将来像も含めて、可能性を感じているところです。

ドライブレコーダー映像の活用にあたり、プライバシーへの配慮はどのように行っているのでしょうか

【トヨタ自動車 加藤様】

この点は、市民の皆さんにも安心していただくために、ぜひお伝えしたいところです。私たちは、無造作に映像を取得しているわけではありません。あくまでも事故や災害の現場があり、その付近を走る、同意を得た車両の映像を取得する仕組みです。また、人の顔や車両のナンバープレートが映らないよう、最大限の配慮をしています。皆様の命に関わるような事案で使わせていただくものだからこそ、個人情報やプライバシーについては慎重に設計しています。以前、他都市で調査を行った際にも、目的やプライバシーへの配慮を説明することで、前向きに受け止めてくださる方が大きく増えました。何のために、どのように使うのかを丁寧に伝えることを大切にしています。

今回の取り組みを通じて、官民連携の意義をどのように感じていますか

【トヨタ自動車 加藤様】

この事業は、弊社だけでは成立しません。川崎市および消防局の皆さんとの連携があってこそのサービスです。このサービスをただの実証で終わらせず、導入・実装につなげるためには、しっかり結果が伴うこと、そしてこの実証を通じてオペレーターの皆さん、現場の皆さんにとって本当に使えるサービスにしていくことが重要だと思っています。

【川崎市消防局 清水】

消防の使命は、市民の生命・身体・財産を守ることです。一方で、トヨタ自動車様には、交通事故による死傷者を減らしたいという思いがあると伺っています。その思いが重なったことは大きかったと思います。消防だけでは実現が難しかったところに、民間企業から提案をいただき、協力しながら効果を発揮していこうとしている実証です。官民連携の意義を強く感じています。

今後の DRIVE RECORDER119 の展開をどのように考えていますか

【トヨタ自動車 加藤様】

近年、地震や大雨など、自然災害が多く発生しています。大規模災害が起きたとき、その地域の消防局だけでは対応しきれない場面があります。他地域から応援に向かう際にも、「道路が通れるのか」「現地まで到達できるのか」という情報は非常に重要です。弊社としては、多くの自治体にこのサービスを導入いただくことで、大規模災害時にも役立つサービスにしていきたいと考えています。川崎市での実証を通じて得られた知見は、他都市への展開にもつながると思っています。

【川崎市消防局 清水】

現在は実証中ですので、まずは効果をしっかり検証することが大切だと考えています。そのうえで、効果があると判断できれば、予算化し、本導入に向かっていければと思います。今回の取り組みがうまく進めば、川崎市における官民連携の一つの成功事例、あるいは次の連携を生み出すエンジンのような存在になれるのではないかと期待しています。

最後に、これから官民連携を検討されている企業の皆様に向けて、メッセージをお願いします

【トヨタ自動車 加藤様】

私たちは、しっかりお客様と向き合うことを大事にしています。インターネットで調べれば、こういう課題があるのだろうと想像することはできます。しかし、実際の声とは違うことも多々あります。本当に困っている声を一番知っているのは、住民の皆様と日々向き合っている行政の皆様だと思います。官民連携を通じて、私たちも「民」の立場から学ばせていただきながら、課題に直面している現場にとって本当に使えるサービスを開発していきたいと考えています。

編集後記/インタビューを終えて

【川崎市 総務企画局 共創推進室 松田有生】

今回のお話を伺って、官民連携とは、行政が単にフィールドを貸す、企業が単に提案する、というものではないと改めて感じました。行政には、地域課題や市民ニーズを把握できるという強みがあります。一方で、企業の皆様には、技術開発力、事業化のノウハウ、スピード感があります。双方の強みを合わせ、同じ社会課題の解決に向かって取り組むことが、共創なのだと思いました。
本取組は、実証で終わらせず、社会実装を見据えて進めている点でも、非常に意義のある事例だと感じており、制度を整えるだけでなく、庁内手続きや関係部署との調整を含めて、共創推進室が伴走することの重要性にも気づかされました。