「製鉄業」と聞くと、身近さを感じづらい業種にも思えますが、鉄は自動車や家電製品、建築物などあらゆるものに使われていて、私たちの生活にとって必要不可欠なものです。そんな重要な素材「鉄」を供給するJFEスチール東日本製鉄所(京浜地区)は、日本鋼管(株)として渡田地区に創業して以来、100年以上にわたり京浜工業地帯、そして日本経済の発展の一翼を担ってきました。臨海部にそびえる高炉は川崎臨海部のシンボルとも言える存在だっただけに、2023年9月のJFEの「高炉休止」は市内外でも大きなインパクトを与えました。同社総務室の下山文雄さんは「昔を知る地域の方からは、様々なたくさんの思い出を共有していただきました」と話します。地域からは惜しむ声や今後を心配する声もあったそうですが、「下工程」と呼ばれる鉄を薄く延ばしたり成形する業務はこれからも川崎の地で続きます。「私たちの鉄づくりは終わっていませんし、工場で働く人たちは今も製鉄事業を続けています。誇りと情熱を持って働く彼らのことを理解していただけたら嬉しいです」と同社総務室の須田裕佳子さんも力を込めます。
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「最後の鉄」で記念品制作
実は、川崎市市制100周年記念式典で、来場者記念品として配付されたオリジナルペンホルダーには、2023年9月16日の高炉最終稼働日に作られた鉄が使用されました。この「最後の鉄」は、工場の人々が「何かに使えるかもしれない」と自主的に残しておいてくれていたものだったそうです。鉄は2.5cm大のプレート状にカットされ、市のブランドメッセージが刻印されました。鉄を想う現場で働く人々の計らいで、市制100周年にふさわしい重みのある記念品を完成させることができたのです。「当所の鉄を使いたいというご依頼は率直に嬉しかったですし、市の鉄づくりに対する想いを感じました」と下山さんは振り返ります。
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広大な跡地で生まれる新たなイノベーション
製鉄所の上工程をはじめとする約400ヘクタールに及ぶ広大な跡地では、大規模な土地利用転換事業が進められています。南渡田北地区北側(約5.7ha)は、不動産デベロッパー・ヒューリックを事業パートナーとして、研究開発機能を中心としたまちづくりを進めており、革新的な素材を生み出す研究開発拠点として2027年度にまちびらきを予定しています。
跡地利用の目玉とも言えるのが扇島エリア(222ha)の「OHGISHIMA2050」と銘打ったビッグプロジェクト。次世代インフラとして、温室効果ガスを実質ゼロにするカーボンニュートラルエネルギーの導入が進められ、水素等の供給拠点を形成することで、地区全体のカーボンニュートラルを目指します。ほかにも、空飛ぶクルマや完全自動運転などの次世代モビリティをはじめ未来を体験できる空間の創出や、陸・海・空からのアクセスが可能な広大な平坦地という特性を活かした首都圏防災に貢献する機能の導入などが土地利用構想に織り込まれています。再開発の完了目標は2050年。そう遠くない未来、私たちの生活で「当たり前」になっているものは、ここ扇島で生み出された新技術かもしれません。
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地域とともに新たな挑戦
JFEと川崎市が共催する「ふれあい祭り」は2005年から始まった地域に根付いたイベントで、毎年多くの市民が集い、地域とのつながりを大切にしている取り組みの一つ。JFE敷地内の特設会場では毎年、「音楽とものづくり」をテーマに開かれ大勢の市民が集まります。社員の皆さんも楽しみにしている行事で、市民と接することができる貴重な機会となっているようです。
市民や行政、関連企業と連携してきたJFEスチール東日本製鉄所は現在、時代の大きな転換点に立っています。その中で、長年の鉄づくりで培った経験を武器に、変わらぬ誇りと情熱を携えて、新たな挑戦が始まります。下山さんは「土地利用転換事業は、これからの100年に資する事業。次の100年に向けても、地域の皆さんとともに歩んでいきたい」と意欲を見せました。
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総務部総務室の下山さん(左)と須田さん(右)