福岡地域戦略推進協議会 柏木 浩志様
福岡地域戦略推進協議会(以下FDC)の柏木様にインタビューを実施し、福岡におけるFDCの活動や官民連携の考え方をはじめ、柏木様が現在感じられている官民連携における課題感や今後の論点・ポイント、そして川崎市に対する印象等について伺いました。

福岡地域戦略推進協議会(FDC) 事務局次長 柏木 浩志様
柏木様プロフィール
福岡県出身。大手通信会社系IT会社にて新規事業プロジェクト・海外事業の立ち上げ・スタートアップ支援を行う。その後、医療系事業に従事した後に福岡地域戦略推進協議会に参画。
1. FDCがどのような背景から生まれたのか、教えてください
FDCの成り立ち
FDCは2011年に福岡都市圏が国際競争力を持つ都市として成長し、持続的な成長を目指していくための仕組みとして立ち上がりました。地域戦略の策定・推進に取り組むとともに、2017年には新規事業の創出や事業化を支援するFLaP(FDC Launch Program)を創設するなど、産学官民の連携を通じた事業推進の仕組みを発展させてきました。最初から全方位型組織を目指したのではなく、時勢のニーズに応える取り組みをアジャイルに広げてきたことで、現在のように幅広い領域を扱う組織になったという経緯です。
海外都市も意識した活動展開
海外に目を向けると、ヨーロッパでもアジアでも、都市間競争を勝ち抜くために、都市をどう売り込むか、どうやって外から人材や企業、知見を呼び込むかという観点で、官民連携組織が大きな役割を担っています。そのような海外都市も参考にしながら、福岡のコンパクトシティ、アジアとの地理的近さなどを強みに、「東アジアのビジネスハブ」を目指してきました。
競争だけでなく、都市間連携という視点も重要
海外都市との競争という点で言えば、日本の都市同士で競い合うだけではなく、役割分担しながら一緒に戦っていく必要があると思っています。日本全体でどう戦っていくかという視点が、これからは必要だと思います。

2. FDCが福岡にもたらした変化として、特に大きいものは何でしょうか

容積緩和による都市更新の後押しや競争力向上
具体的な成果の一つが、国家戦略特区の活用と天神ビッグバンです。福岡市は空港が都心に近く利便性が高い一方、航空法による高さ制限があり、老朽化したビルの建替えや本社機能の誘致を進めるうえで課題を抱えていました。そこでFDCは、福岡市と共同で国家戦略特区を提案し、航空法の高さ制限緩和の実現に取り組みました。こうした特区の活用と、福岡市が独自の容積率緩和制度などを組み合わせて推進されているのが、福岡市の「天神ビッグバン」です。 FDCは、2012年度に策定した「福岡都心再生戦略」を踏まえ、官民連携による都心再生を推進し、都市競争力の向上だけでなく、防災や耐震性の強化にも繋がる取り組みを進めてきました。
幅広い世代に「挑戦する人」を増やすスタートアップ支援
そして都市開発だけでなく、スタートアップ支援にも注力しています。もちろんIPO件数のようなKPIも見ていますが、本質的にはそこだけではなく、チャレンジする人をどれだけ増やせるかだと考えています。福岡では、廃校となった、旧大名小学校の校舎を活用したスタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next(FGN)」 が運営され、そこでは起業相談できるコワーキングスペースが設けられています。定年退職後の方や高校生等、想像以上に幅広い世代の方に利用いただけているようです。「起業してもいい」「挑戦してもいい」という選択肢を多くの人に示すことには、大きな意義があると思っています。
3. 官民連携を進めるうえで、どのようなことが重要と考えますか
官と民をつなぐ「翻訳」と「調整」
連携を進めるうえで、私が特に重要だと思っているのは、翻訳機能と調整機能です。行政の考えをそのまま民間に伝えてもうまくいかないことがありますし、民間の要望をそのまま行政に伝えても、やはりぶつかってしまうことがあります。官と民では文化や優先順位、意思決定の仕組みが違います。その違いを踏まえながら、間に立って言葉や期待値を調整する役割が欠かせません。FDCでも、実際にそうした調整役を担う場面が多くあります。
本音で話せる関係づくり
それから、腹を割って話せる関係性をつくることも非常に大事です。FDCでは、行政や民間事業者が同じテーブルについて、率直に話せる懇親会等の場を意識的につくってきました。率直に意見を言える、安心して話せる場所があるからこそ、本当の連携が生まれるのだと思います。官民連携はきれいな建前だけでは進まず、「どこで稼ぐのか」「誰がリスクを取るのか」「行政はどこまで踏み込むのか」といった論点を本音で話せる関係性が必要です。
社会課題の解決と事業性の両立
また、実証実験を社会実装につなげるためには、民間側がビジネスモデルを真剣に考える必要があります。行政の協力だけに頼るのではなく、どうやって事業として成立させるのかを詰めていかなければいけません。社会課題の解決と事業性をどう両立させるかが、今後ますます重要になると思っています。
4. 官民連携組織が果たす役割はどのようなものでしょうか
専門性や各方面へのリレーションを保持し、行政の役割を補完する
行政にはどうしても人事異動があります。担当者が数年で変わると、専門性や関係性が途切れてしまうことがあります。FDCのような官民連携組織は、その部分を補完する役割を担っていると思います。特に海外都市や海外機関との関係性は、行政の人事異動だけでは継続が難しい場合もあり、こうした知見と接点を組織として持ち続けることに意義があると思います。
成功も失敗も知見として蓄積し、次に活かす
官民連携組織が過去の実証結果や、うまくいかなかったケースも含めて知見を蓄積し、継続性と専門性を補完することも、官民連携を前進させるうえで重要な要素だと思っています。
5. 川崎市での官民連携についてどのような印象を持っていますか

川崎市ならではの強い産業基盤
川崎市は、福岡にはない非常に強い産業基盤を持っている都市で、正直羨ましいと思う部分もあります。工業やテクノロジーの基盤は、一朝一夕でつくれるものではありません。そのうえで、川崎市には大企業、研究開発機関、スタートアップなど、多様なプレイヤーが集積しているので、非常に大きな強みだと思っています。
行政が「ハブ」としての役割を果たす価値
人を起点とした共創の広がり
官民連携という言葉からは行政と民間事業者の連携が想起されがちですが、川崎市のように多様な民間事業者・研究機関が集積する地域では、民間事業者同士、研究機関と事業会社、大企業とスタートアップといった「民民連携」を後押しすること自体にも大きな意味があると思います。共創窓口がそうした接続を支援し、連携のハードルを下げることは、川崎市において特に有効な取組となり得ます。
「官民連携」だけでなく「民民連携」の後押しも重要
官民連携という言葉からは行政と民間事業者の連携が想起されがちですが、川崎市のように多様な民間事業者・研究機関が集積する地域では、民間事業者同士、研究機関と事業会社、大企業とスタートアップといった「民民連携」を後押しすること自体にも大きな意味があると思います。共創窓口がそうした接続を支援し、連携のハードルを下げることは、川崎市において特に有効な取組となり得ます。
6. 川崎市のように、行政が重点的な取組領域を示すことはどのように捉えていますか
行政が方向性を示し、一歩踏み込むことは重要
川崎市のように行政が重点的な取り組み領域を示すのは、重要なことだと思います。行政が“この指とまれ”と示し、さらに行政として後押しする、コミットするという姿勢があると、民間事業者にとっては動きやすくなるためです。しかし一方で、民間の行動に期待するだけでなく、行政がどこかで踏み込まないと連携が進まないケースもあります。特に、予算や議会が絡むと、行政側が慎重になることもあります。
担当者の方針に依存しない、一貫した制度が必要
官民連携の取組では、担当者が変わることで方針が変化することもあります。そうした継続性の難しさも含めて、官民連携には調整が必要です。だからこそ、組織として継続できる仕組みをつくることが大切だと思います。
7. 最後に、川崎市で官民連携に取り組む民間事業者や行政職員に向けて、メッセージをお願いします
川崎市ならではの官民連携に期待~挑戦を、次の挑戦へ~
川崎市には、福岡とは異なる強みがあります。ものづくりや研究開発の蓄積、多様な民間事業者の集積は、川崎ならではの大きな資産です。だからこそ、他都市のやり方をそのまま取り入れるのではなく、川崎らしい官民連携の形をつくっていくことが大切だと思います。行政が課題や重点領域を示し、民間事業者が技術やビジネスの視点を持ち寄る。その間をつなぐ窓口が、翻訳し、調整し、本音で話せる場をつくっていく。そうした積み重ねが、挑戦を次の挑戦につなげていくのだと思います。川崎市には多様な資源と、それらをつなぐ窓口としての「Kawasaki Future Co-Lab」等があります。それらを活かして、川崎市でこれからどのような共創が生まれるのか期待しています。
編集後記/インタビューを終えて(川崎市 総務企画局 共創推進室)
今回のインタビューを通じて、官民連携を前に進めるためには、制度や仕組みを整えるだけでなく、地域の強みを見極め、それを生かしながら挑戦を積み重ねていくことの重要性を改めて感じました。川崎市には、ものづくりや研究開発の集積、多様な企業・団体の存在など、官民連携の文脈で大きな強みがあります。こうした川崎ならではの資源を、今後の共創や課題解決にしっかりと生かしていきたいと考えています。また、川崎市では、官民連携窓口「Kawasaki Future Co-Lab」や官民連携組織「Colors,Future! Actions推進部会」を運用しており、民間事業者の皆様との対話や連携を進めるための基盤があります。こうした仕組みも積極的に活用しながら、分野や立場を越えたつながりを生み出し、実証にとどまらない実装や事業化につなげていくことが重要だと考えています。これからも川崎市は、民間事業者の皆様とともに挑戦しながら、新たな価値の創出と地域課題の解決に取り組んでまいります。

